休憩時間は、仕事から手を放して、ほっとひと息つける時間です。
休憩時間は仕事をしていないので、原則として給料は出ません。
しかし、
- 休憩時間も、電話がなったら電話を取らなければならない
- 休憩時間に、お客さんが来たら来客対応しなければならない
という方も少なくありません。
このような場合は、正社員でも休憩時間に給料が出る可能性があります。
また、これはアルバイト、パートなど雇用形態が違っても同じ話です。
- 休憩時間に給料が出るのか
- 休憩時間の原則
- 休憩時間に労働した場合の、給料の計算方法
について弁護士が解説します。
正社員における休憩時間の概要
休憩時間とは、「休む時間」であり、労働時間とは対の意味をもちます。
通達(昭和22年9月13日基発17号)では、休憩時間とは、「労働から離れることを保障されて居る時間」として定義されています。
後述の通り、労働時間に応じて、法律上、最低限必要な休憩時間の長さは異なりますが、正社員と、パートやアルバイトといった雇用形態だけを理由とする差は定められていません。
また休憩の与えられ方や、この時間に給与が出るかどうかの考え方は、雇用形態が変わっても同じです。
(1)正社員における休憩時間の最低ライン
労働基準法第34条1項では、労働者がとるべき休憩時間の最低ラインを以下のように定めています。
1日の労働時間 | 休憩時間 |
---|---|
6時間以下 | 0分以上 |
6時間超え8時間以下 | 45分以上 |
8時間超え | 1時間以上 |
会社がこの休憩時間のルールに違反すると、6ヵ月以下の懲役または30万以下の罰金刑に処されます(労働基準法第119条1号)。
1日の法定労働時間は原則として1日8時間です。
そのため、所定労働時間が8時間以下の場合、休憩時間は労働時間に応じて、基本的に0分以上か45分以上になります。
8時間を超えて時間外労働(残業)をする場合、休憩時間は原則として計1時間以上必要になります。
ただし会社によっては、従業員に十分な休息を与えるために、お昼休憩を45分ではなく、1時間にすることもあります。
また、場合によっては、深夜労働に入る前の時間帯に、45分の休憩とは別に、15~30分程度の休憩を入れることもあります。
最低限の休憩時間さえ守られていれば、休憩時間を延ばすことは違法ではありません。
(2)正社員の休憩時間の分割
休憩時間を分割して与えることも可能です。
たとえば、8時間労働の場合、お昼休憩を45分、その他の時間帯に15分の
休憩といったように、休憩時間を分割することもできます。
しかし、5分×9回など、あまりに細切れの休憩時間の分割をしている場合、リフレッシュするという休憩の趣旨に反します。
そのため、このようなあまりに細切れの休憩時間を設けても、これは休憩時間ではなく、「手待ち時間」(労働時間)であるとして、違法となる可能性があります。
労働基準法で定める休憩時間の3原則
労働基準法第34条には、休憩時間について、次の3原則が定められています。
- 「途中付与」の原則
- 「一斉付与」の原則
- 「自由利用」の原則
この3原則を会社が守らない場合は、原則として労働基準法違反となります。
※ただし、一部の業種や企業については、この休憩時間の3原則の全部または一部が適用されません。
(1)途中付与の原則
休憩時間は、必ず労働時間の「途中」に入れなければなりません(労働基準法第34条1項)。
したがって、たとえば8時間労働の場合に、最後の1時間を休憩時間に設定し早退をさせたり、最初に1時間を休憩にしたりすることで出勤を遅くするなどの対応は禁じられています。
(2)自由利用の原則
労働基準法第34条3項により、休憩時間中は一切の労働から完全に開放されなければなりません。
そのため、上司などから休憩時間中に業務を頼まれたりした場合、その業務をした時間は労働時間となり、休憩時間にはなりません。
また、休憩時間中に、来客や電話対応のため待機する当番をしている時間(手待ち時間)は、休憩時間ではなく労働時間となります。
休憩時間中に労働をしたために、労働基準法の定める休憩時間を下回った場合は、労働基準法違反となります。
この「自由利用の原則」は、後述する「正社員の休憩時間に給料は発生するのか?」に関係する大事なポイントになります。
(3)一斉付与の原則
休憩は、事業場で従業員が一斉に取らなくてはなりません(労働基準法第34条2項)。
そのため、全員が同じ事務作業を行なうオフィスなどでは、ランチ休憩の時間が予め決められていることもあります。
ただし、休憩の一斉付与には2つの例外があります。
1つ目は、労使協定を締結している場合です。事業場の労使協定を結ぶことで、一斉付与の原則が適用されず、各人が個別に休憩を取ることが認められています。
2つ目は、業種による適用除外です。一斉付与の原則が適用されない業種は、運送業、郵便・電気通信、商業、病院・保健衛生、旅館・飲食店、金融・広告、接客娯楽業、映画・演劇、官公署の事業などです。
正社員の休憩時間に給料は出る?
正社員などの給料や賃金は、労働の対償として支払われるものです。
一方で、正社員などが先述の3原則に沿った休憩をする場合、その時間は「労働から離れている」ことになるため、使用者が給料を支払う義務はありません。
ただし、会社側が休憩時間を付与していても、従業員が自由に時間を使えず労働時間とみなされる場合、給料の支払義務が生じる可能性があります。
正社員などの休憩時間と給料でトラブルになりやすい4つのケース
休憩時間の給料支払いでトラブルになるのは、労働者側が「これは休憩時間ではなく労働時間に該当するのではないか?」と感じたときです。
たとえば、次の4つのケースに該当する場合、使用者から「休憩時間」とされていても、給料が発生する可能性があります。
- 休憩時間中も仕事をせざるを得ない
- 手待ち時間も休憩時間になっている
- 1人勤務である
- 出勤から退勤まで休憩時間を取ることができない業態
これらにつき、詳細を解説いたします。
(1)休憩時間中も仕事をせざるを得ない
たとえば、オフィス内の従業員が一斉に休憩をとった場合、急な来客や電話が鳴ったときに誰かが対応をする必要があります。
また、電話が鳴ることを想定して、誰かがデスクでお弁当を食べる職場もあります。
その頻度が少なければ、従業員に「自分は休憩時間も労働しているのでは?」といった違和感は生じにくいかもしれません。
しかし、休憩中に来客待ちや電話当番をしている時間は、基本的に後述の「手待ち時間」として労働時間にあたります。また、実際に来客対応や電話対応をすればもちろん労働時間にあたり、給料の支払対象となります。
(2)手待ち時間も休憩時間になっている
手待ち時間とは、使用者からの指示があったときに直ちに作業に入れるようにする拘束時間のことです。
手待ち時間には、たとえば次のようなものがあります。
- 電話の応対や来客を待っている時間
- ほかの人の作業が終わらないと自分の作業ができない場合に、ほかの人の作業が終わるのを待っている時間
- 会議開始を待っている時間など
このような休憩時間中の手待ち時間を休憩時間として扱うことは、労働基準法第34条3項に違反する可能性があります。
通達でも、休憩時間とは、「単に作業に従事しない手待ち時間を含まず、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間」(昭和22年9月13日発基17)とされています。
手待ち時間が生じやすい仕事には、以下のようなものがあります。
- 貨物待ちのトラック運転手
- トラブルに備える社内待機の運転手
- タクシー運転手
- 来客待ちの窓口当番
手待ち時間には、スマートフォンを操作するなど自由な時間もあります。
しかし、お客さまからの電話対応やトラブル時の対処を考えると、休憩時間ほどリラックスはできません。
したがって、手待ち時間は基本的に、給料の発生する労働時間になると考えてよいでしょう。
(3)1人勤務である
夜間のアルバイトや、来客数の少ない個人経営の店などの場合、1人勤務(いわゆるワンオペ)になることがあります。
店長から「1時間自由に休んでいいよ」と言われても、1人勤務では交代要員がいないため、完全に労働から解放される休憩時間を取ることができないことが多いです。
また、絶え間なく来客や問合せの電話があった場合、その対処に追われて満足な休憩時間がとれないまま1日の仕事が終わることも少なくありません。
このように、ワンオペのせいで本来の休憩時間に労働せざるを得なかった時間は、休憩時間ではなく給料の発生する労働時間に該当します。
(4)出勤から退勤まで休憩時間を取ることができない業態
アパートや寮の管理人として住み込みで働いている場合、8~17時までの勤務契約になっていても、住人からの相談などがあれば休憩時間でも対応が必要なこともあります。
また、たとえば大雪が降った際に、使用者との間で決めた勤務時間だけは除雪が追いつかず、休憩時間をとらずに終日雪かきをすることもあります。
このようなケースでは、休憩時間をとったとはいえず、給料の発生する労働時間にあたります。
正社員の休憩が労働時間だった場合の給料計算
会社から指定された休憩時間も労働時間だった場合、企業は、1日の労働時間の合計が法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)以内なら通常の給料と同じ単価で給料を支払えば済みます。しかし、法定労働時間を超えた場合は時間外労働として割増賃金の支払義務が発生します。
残業代の計算式は以下のとおりです。
残業代=1時間あたりの基礎賃金×割増率×残業時間
このうち、「1時間あたりの基礎賃金」は、月給制の場合、次のように計算します。
1時間あたりの基礎賃金や割増賃金に円未満の端数が出たときは、次のような運用が認められています。
- 50銭以上1円未満⇒1円に切り上げ
- 50銭未満⇒切り捨て
また、1ヵ月あたりの割増賃金の総額に円未満の端数が出たときも、上記と同様の運用が認められています。
たとえば、以下の人の例を見てみましょう。
- 1日9時間勤務(休憩込み)×21日
- 1年間における1ヵ月平均所定労働時間が160時間
- 月給の基礎賃金25万円
- 休憩時間もすべて労働
- 法定労働時間:1日8時間が適用される通常の勤務体系
- 管理監督者など法律上、一部の残業代の支払が除外される対象ではない
この場合、以下の式で求めた割増賃金として受け取ることができます
- 25万円÷160時間=1,563円(1時間あたりの基礎賃金)
- 通常の時間外労働(残業)かつ、時間外労働が月60時間以下の場合、割増率は1.25倍
- 1ヵ月21日出勤で21時間
- 1,563円×1.25×21=4万1029円※50銭以上切り上げ
このように、休憩時間もすべて労働して、1日9時間労働している人であれば、毎月まとまった金額の割増賃金が発生していることになります。
【まとめ】休憩時間にも給料は出る
休憩時間に給料が支払われるかどうかは、休憩時間中の労働者が労働から完全に解放されているかどうかによって変わってきます。
休憩時間に労働が発生している場合、企業は、労働が発生した休憩時間に対し、給料の支払をしなければなりません。
所定労働時間が8時間+休憩時間の会社の場合、休憩時間にも労働させられることで、1日の労働時間が法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)を超えることになります。
法定労働時間を超えた労働をしている場合、原則として割増賃金が発生します。
これは正社員だけではなくアルバイト、パートなどの場合も同様です。
休憩時間に労働を行なっていて、「この時間に給料は出ないのだろうか?」と悩む方は弁護士に相談をしてみてください。
弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。